この記事では、節税対策・争族対策として利用される資産管理会社の設立について、基本的な事項を中心に、実務的な内容も交えて説明します。一口に資産管理会社といっても形態や効果などが異なるため、どのタイプが良いかを十分に吟味してから設立する必要があります。
近年はWeb上で簡単に定款を作成することができ、非常に便利になってきていますが、他方で、相続や事業承継を踏まえて不動産会社(資産管理会社)を設立する場合は、相続対策のほか相続税対策や所得税対策等も念頭に原始定款を作成していく必要があり、専門性が必要となります。
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相続タックス総合事務所は、不動産オーナー様に特化した税理士・不動産鑑定士・行政書士事務所です。
代表者が最初から最後まで、丁寧に、迅速に、真心を込めて、至高の資産税サービスをご提供させて頂きます。
目次
1.株式会社と合同会社の選択
不動産オーナーが不動産法人化を検討する場合、まず、会社の法人形態として「株式会社」とするか、「合同会社」とするかを選択します。
(1) 株式会社と合同会社との比較
株式会社と合同会社とを比較した場合の両者の相違点としては次の表の通りです。
比較する内容 | 株式会社 | 合同会社 |
---|---|---|
特徴 | 資本と経営の分離 | 資本と経営の一致 |
機関設計 | 株主総会と取締役の設置が必須 | 制約なし |
資本規制 | あり | なし |
役員の任期 | 最長10年 | 制限なし |
意思決定機関 | 株主総会 | 出資者(社員) |
業務執行機関 | 取締役・取締役会 | 出資者(社員) |
決算公告 | 必要 | 不要 |
会社法による制約 | 多い | 少ない |
損益の分配 | 出資額に比例 | 定款で自由に決定 |
設立費用 | 20万円~ | 6万円~ |
ランニングコスト | やや高い | 普通 |
認知度 | 高い | 低い(高くなってきている) |
向いている不動産会社 | 不動産所有会社 | 不動産管理会社・サブリース会社 |
(2) 株式会社と合同会社の選択
不動産会社の設立に当たっては、株式会社を選択するか、あるいは合同会社を選択するかは、発起人の自由ですが、特段のこだわりが無ければ、弊所では次の通り会社形態を選択することを推奨しています。
- 不動産管理会社・サブリース会社
→ 合同会社 - 不動産所有会社
→ 株式会社
① 不動産管理会社・サブリース会社
不動産管理会社とサブリース会社については、基本的に会社規模の小さい会社を想定しています。したがって、このような場合、次の点を主な理由として「合同会社」による設立を推奨しています。
- 合同会社の方が株式会社よりも設立費用とランニングコストが安いため
- 不動産管理会社やサブリース会社に社会的認知度は必要無いため
- 合同会社の方が意思決定が容易であり、業務効率性も高いため
② 不動産所有会社
不動産所有会社については、資産規模が大きい会社を想定しています。したがって、このような場合、次の点を考慮して「株式会社」による設立を推奨しています。
- 売上規模が大きくなる不動産所有会社の場合、資本と経営が分離している方がメリットがあるため
- 知名度のある株式会社の方が、銀行からの借り入れ手続きがスムーズとなるため
- 株式会社の方が退職金制度の設計に幅があり、相続・事業承継の仕組み作りも柔軟にできるため
- 将来的な追加出資の可能性も担保しておく必要もあるため
- 株式譲渡という選択肢を用意しておくメリットもあるため
- 多数決の原理によった方が会社運営が容易となる場合も多いため
(3) 株式会社の合同会社化、合同会社の株式会社化
株式会社と合同会社は、定款で各種の条項を設けることで概ね似たような機関設計とすることも可能です。
しかしながら、定款により株式会社を合同会社化したり、あるいはその逆のことをすると、後々の後継者にとって分かりにくく、不測の事態も起こりかねないため、弊所の基本方針としては、株式会社は株式会社の特性を残すように、合同会社は合同会社の特性を残すように定款設計をすることを推奨しています。
2.不動産会社の設立手順
不動産会社の設立は次の手順に従い行います。
基本情報の収集と必要資料の準備(1~2週間)
法人設立に当たり必要となる基本的な事項(社名など)を決定したり、必要となる資料を準備します。
現物出資に係る評価・書類の作成(1~2ヶ月)
法人設立に当たり不動産を現物出資する場合は、①不動産鑑定評価と②各種の資料の作成(証明書、財産引継書、資本金の額に計上する証明書など)が必要となります。
定款案の作成・認証(1週間前後)
基本的事項を決定し、必要書類が整えば、これらを基に「定款」を作成し、公証人役場で定款の認証を受けることになります。
出資金の払い込み
出資金の払い込みを行います。
法人設立登記(2週間前後)
法人設立登記を行います。
不動産を現物出資した法人設立の場合は、不動産の所有権移転登記手続きも必要となります。
各種届出(1週間前後)
税務署、都道府県税事務所、年金事務所等に対して各種の届出を行います。
3.定款に記載する内容
定款に記載すべき事項には、次の3つの記載事項があります。
- 絶対的記載事項(会社法27条)
法律上必ず記載しないと定款が無効となるもの - 相対的記載事項
定款に記載しないと効力が生じないもの - 任意的記載事項
記載するかしないか当事者に任されているもの
(1) 絶対的記載事項
絶対的記載事項とは、必ず定款に記載しなければならない事項のことをいい、次の5つがあります。
No | 記載事項 | 備考 |
---|---|---|
① | 目的 | ・不動産管理業 ・不動産の賃貸借の斡旋業(要宅建免許) |
② | 商号 | 必ず「株式会社」あるいは「合同会社」を含めます。 例)○○株式会社、○○合同会社、株式会社○○ |
③ | 本店の所在地 | 大きな行政単位(例:〇〇町)とすることを推奨します。 |
④ | 設立に際して出資される 財産の価額又はその最低額 | 資本金の額を1,000万円未満とすることで次のメリットがあります。 ・法人住民税の均等割が7万円(最低額)となります。 ・創業後2年間は消費税の免税事業者となります。 |
⑤ | 発起人の氏名又は名称及び住所 | 一人であっても、複数であっても問題ありません。 |
(2) 相対的記載事項
相対的記載事項とは、定款に記載する義務はないものの、定款に記載しなければ効力が生じないものをいいます。
No | 記載事項 | 備考 |
---|---|---|
① | 変態的記載事項 | 現物出資などがある場合には記載する必要があります。 |
② | 株式の譲渡制限に関する定め | 株式の譲渡制限を掛けることができます。(非公開会社化) |
③ | 取得請求権株式に関する定め | 会社が株式を取得することができる株式について定めることができます。 |
④ | 取得条項付株式に関する定め | 一定の事由が生じた場合に会社が株式を取得することができる株式について定めることができます。 |
⑤ | 取締役等の任期の伸長 | 非公開会社であれば最長10年とすることができます。 |
⑥ | 取締役会の決議の省略 | 書面又は電磁的記録による同意による可決ができるようにすることができます。 |
(3) 任意的記載事項
任意的記載事項とは、定款に記載するか否かは発起人の任意である事項をいいます。
No | 記載事項 | 備考 |
---|---|---|
① | 事業年度 | 事業年度を定めることができます。各種届出の省略のためにも通常は記載します。 なお、不動産オーナーとの収支突合との関係から、12月末を推奨しています。 |
② | 株式 | 株主名簿の基準日などについて定めを置くことができます。 |
③ | 株主総会 | 定期株主総会の収集時期や議決権の代理行使について定めを置くことができます。 |
④ | 機関 | 取締役等の員数、代表取締役等の設置、取締役会召集権者などを定めることができます。 |
⑤ | 公告の方法 | 官報、日刊新聞、電子公告から公示方法を選択することができます。 |