借家人の有する土地利用権の評価

2021年9月4日
阿部 博行

阿部 博行

税理士・不動産鑑定士・行政書士・FP1級技能士・応用情報技術者

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1.建物賃借人(借家人)の権利

借家人の権利
借家人の権利

(1) 建物賃借人の権利

建物賃借人は、建物を利用する権利を有するとともに、当該建物を利用するために必要な土地の利用権も有します。例えば、敷地を通る権利です。

建物利用権(主たる権利)と土地利用権(従たる権利)
建物利用権(主たる権利)と土地利用権(従たる権利)

ただし、建物賃借人は建物賃借権(借家権)を有しますが、土地賃借権(借地権)は有しませんので、土地上に建物等を建築することはできず、また、敷地利用権の範囲を超えた土地の利用はできません。(例:自動車の駐車や野立て看板の設置など)

(2) 借家権の法的安定性

建物賃借人の有する建物賃借権(借家権)は、民法第605条以降の「賃貸借」と借地借家法第26条以降の「借家」に関する規定により保護されます。

建物賃貸借契約と明渡し
建物賃貸借契約と明渡し

借地借家法第26条第1項では、期間の定めのある建物賃貸借契約をした場合、当事者が契約期間の満了の1年前~6月前の間に相手方に対して契約の更新をしない旨の通知をすることで解約することができる旨規定されており、また、同法第27条では、賃貸人が解約の申し入れをした場合は建物賃貸借契約は6月を経過することで終了する旨規定されています。

しかしながら、同法第28条において上記の解約は「正当事由」が無い限り認められない旨規定されています。

したがって、契約期間の満了による解約又は賃貸人都合の解約の場合は「正当事由」が必要になるわけですが、正当事由による解約が認められることは現実にはほとんどなく、通常は高額な立退料ありきの「合意解約」による解約であるため、借家権の法的安定性は非常に高くなっています。

(建物賃貸借契約の更新等)
第26条 建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の1年前から6月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。
 前項の通知をした場合であっても、建物の賃貸借の期間が満了した後建物の賃借人が使用を継続する場合において、建物の賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときも、同項と同様とする。
 建物の転貸借がされている場合においては、建物の転借人がする建物の使用の継続を建物の賃借人がする建物の使用の継続とみなして、建物の賃借人と賃貸人との間について前項の規定を適用する。

(建物賃貸借契約の更新等)
第27条 建物の賃貸人が賃貸借の解約の申入れをした場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から6月を経過することによって終了する。

(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
第28条 建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない

借地借家法|e-Gov

2.借家人の有する土地利用権の価額

借家人の有する土地利用権の価額は、原則として、次の区分に応じた計算式により評価します。

(1) 借家人の土地利用権の評価計算式

  1. 自用地又は借地権の上に存する借家人の土地利用権
    借地権の価額※1 × 借家権割合※2 × 賃借割合※3
  2. 競合する権利が存する場合の借地権の上に存する借家人の土地利用権
    権利が競合する場合の借地権等の価額※4 × 借家権割合 × 賃借割合
  3. 転借地権の上に存する転借家人の土地利用権
    転借地権の価額※5 × 借家権割合 × 賃借割合
  • 借地権の価額(基本算式)自用地としての価額×借地権割合
  • 借家権割合
  • 賃借割合
  • 権利が競合する場合の借地権等の価額
  • 転借地権の価額

(2) 借家権の取引慣行が無い場合の取り扱い

借家権は、借家権の取引慣行の無い地域にあるものについては評価をしません。

借家権の市場で取引されるためには、①借家権の譲渡可能性(法的側面)と②借家権としての絶対的需要(市場的側面)の2つが必要です。

以前は東京銀座や大阪北新地、博多中洲などの歓楽街では上記2要件を満たした借家権が存在し、実際に相当な対価をもって市場で取引されていました。しかしながら、近年の建物賃貸借契約のトレンドは「定期借家契約」であり、また契約書において借家権の譲渡性を否認する条項が設けられているものが多いため、銀座や北新地の店舗と言えど、市場価値のある借家権としての取引はほとんど見られないのが実情です。

相続タックス総合事務所の代表は、大手資産税税理士事務所と大手不動産鑑定会社の両方で、計15年の経験を積んだ、この業界でも珍しい税務と鑑定評価の両方の実務経験がある税理士・不動産鑑定士です。

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