この記事は、法人が個人に対して土地を貸し付けた場合の借地権の評価について解説をしています。
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目次
1.法人が個人に土地を貸付けた場合の借地権評価の分類
法人が個人に対して土地を貸付けた場合の借地権評価は、①土地の無償返還に関する届出書の有無、②権利金の有無、③地代の大小に応じて、相続税の土地評価上の利用区分及び評価額(評価方法)が次の通り異なります。
No | 無償返還 | 権利金 | 地代 | 利用区分 | 借地権の評価額 |
---|---|---|---|---|---|
① | なし | あり | 不問 | 借地権 | 自用地価格×借地権割合 |
② | なし | なし | 通常の地代以下 | 借地権 | 自用地価格×借地権割合 |
③ | なし | なし | 通常の地代超 相当の地代未満 | 借地権 | 相当地代通達② |
④ | なし | なし | 相当の地代以上 | 借地権 | 0円 |
⑤ | あり | なし | 固定資産税相当額以下 | 使用借権 | 0円 |
⑥ | あり | なし | 固定資産税相当額超 | 借地権 | 0円 |
なお、地主が借地人の同族会社である場合には、税法理論的には、上記の③、④及び⑥の借地権の評価額に次の金額を加算することとなります。
- ③かつ自用地価格>借地権価格+貸宅地価格の場合
自用地価格-(借地権価格+貸宅地価格) - ④及び⑥の場合
自用地価格×20%
2.権利金の授受がある場合の借地権価格
(1) 相続税の財産評価上の借地権価格
法人が個人に対して土地を貸付けた場合において、借地権設定時に権利金等の一時金の授受がある場合は、借地権設定当初から借地権の存在が明らかであるため、現行地代の大小に関わらず「自用地価格×借地権割合」により借地権価格を評価します。
(2) 現行地代と通常の地代との差額の取り扱い
借地権の設定に当たり通常の権利金の授受がある場合には、契約地代も通常の地代であるのが基本ですから、現行地代が通常の地代と乖離する場合には、その乖離部分については「債務免除」または「寄付」として取り扱います。
① 現行地代が通常の地代を下回る場合
個人側(借地人)の処理
現行地代が通常の地代を下回る場合は、その下回る地代を地主より免除されているものとして取り扱います。当該債務免除益は「その他の経済的な利益」としてその年分の収入金額となります(所法36)。
なお、この場合の債務免除益は、貸主である法人との関係性に応じて、雑所得(事業所得)又は給与所得として取り扱います。
(収入金額)
所得税法|e-Gov
第36条 その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。
2 前項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする。
法人側(地主)の処理
法人地主については、通常の地代を受け取ったものとして通常の地代に相当する金額を益金算入した上、現行地代が通常の地代を下回る部分を借地人に対して寄付したものとして取り扱います。
この場合、寄付したものと擬制した金額は、借地人である個人との関係性に応じて寄付金又は役員給与、給料・賃金として処理します。
現金預金(通常の地代) | 100万円 | 受取地代(益金) | 100万円 |
寄付金・役員給与等 | 50万円 | 現金預金(差額地代) | 50万円 |
② 現行地代が通常の地代を超える場合
個人側(借地人)の処理
現行地代が通常の地代を超える場合は、通常の地代を支払った上、さらに通常の地代を超える部分の金額を法人に対して寄付したものとして取り扱います。
法人側(地主)の処理
法人地主については、通常の地代を受取地代として益金算入するとともに、通常の地代を超える部分の金額は受贈益として益金算入します。
現金預金 | 150万円 | 受取地代(通常の地代) | 100万円 |
受贈益(差額地代) | 50万円 |
3.権利金の授受がなく、かつ、無償返還の届出もない場合の借地権価格
法人が個人に対して土地を貸付けた場合において、借地権設定時に権利金等の一時金の授受がなく、かつ、土地の無償返還に関する届出書の提出もない場合には、地代の大小に応じて評価方法が次の通り異なります。
(1) 現行地代が通常の地代以下の場合
借地契約の当事者の一方に法人がいる場合には、原則として使用貸借通達の適用がありません。また、法人は経済的利益を追求する主体であると考えられているため、常に経済的合理性に合致した商取引を行っているものとして課税処理を行います。
そのため、現実には権利金の授受も、地代の支払いも無くとも、課税上は通常の借地契約があった場合と同様に処理をします。
① 借地権設定時
個人側(借地人)の処理
個人については、法人から借地権を贈与により取得したものとして、法人との関係性に応じて、一時所得又は給与所得として処理をします。
なお、この時の借地権の価格は相続税評価額ではなく、適正時価であることに注意します。
法人側(地主)の処理
法人は個人から通常の権利金を収受したものとして益金処理するとともに、同額を寄付金又は役員賞与等として処理をします。
現金預金 | 100万円 | 権利金収入(益金) | 100万円 |
寄付金・役員賞与等 | 100万円 | 現金預金 | 100万円 |
(参考)
資本金1,000万円、寄付金支出前の所得金額が1,000万円の法人が寄付をした場合の一般寄付金の損金算入限度額は7万円弱となります。
② 地代の支払い時
個人側(借地人)の処理
現行地代が通常の地代を下回る場合は、その下回る地代を地主より免除されているものとして取り扱います。当該債務免除益は「その他の経済的な利益」としてその年分の収入金額となります(所法36)。
なお、この場合の債務免除益は、貸主である法人との関係性に応じて、雑所得(事業所得)又は給与所得として取り扱います。
(収入金額)
所得税法|e-Gov
第36条 その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。
2 前項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする。
法人側(地主)の処理
法人地主については、通常の地代を受け取ったものとして通常の地代に相当する金額を益金算入した上、現行地代が通常の地代を下回る部分を借地人に対して寄付したものとして取り扱います。
この場合、寄付したものと擬制した金額は、借地人である個人との関係性に応じて寄付金又は役員給与、給料・賃金として処理します。
現金預金(通常の地代) | 100万円 | 受取地代(益金) | 100万円 |
寄付金・役員給与等 | 50万円 | 現金預金(差額地代) | 50万円 |
③ 相続開始時
相続が発生した場合、借地権価格は現行地代の大小に関わらず「自用地価格×借地権割合」により評価します。これは、借地権設定時に借地権が借地人に移転されたものと考えるためです。
(2) 現行地代が通常の地代を超え、相当の地代未満の場合
現行の地代が通常の地代を超え、相当の地代に満たない場合には、相当地代通達に従って課税処理を行います。
① 借地権設定時
個人側(借地人)の処理
個人については、法人から借地権を贈与により取得したものとして、法人との関係性に応じて、一時所得又は給与所得として処理をします。
なお、この場合の借地権価格は法人税法基本通達13-1-3にある次の算式により計算をします。また、土地の更地価格は適正時価であり、相続税評価額とは異なるため注意します。
法人側(地主)の処理
法人は個人から通常の権利金を収受したものとして益金処理するとともに、同額を寄付金又は役員賞与等として処理をします。
現金預金 | 100万円 | 権利金収入(益金) | 100万円 |
寄付金・役員賞与等 | 100万円 | 現金預金 | 100万円 |
(参考)
資本金1,000万円、寄付金支出前の所得金額が1,000万円の法人が寄付をした場合の一般寄付金の損金算入限度額は7万円弱となります。
② 地代の支払い時
現行地代が通常の地代を超え、相当の地代未満の場合は、差額地代は生じません。
③ 相続開始時
相続税の財産評価上の借地権の価格は、相当地代通達④に従い、次の計算式により計算をします。
ただし、地主が借地人の同族会社であり、かつ、自用地価格>借地権価格+貸宅地価格である場合には、上記借地権価格に「自用地価格-(借地権価格+貸宅地価格)」を加算調整します。
(3) 現行地代が相当の地代以上の場合
現行の地代が相当の地代以上の場合には、相当地代通達に従って課税処理を行います。
① 借地権設定時
相当の地代の支払いにより借地契約が開始された場合には、借地借家法の保護を受ける借地権は存在するものの、その借地権には財産的価値が無いと考えられるため、個人借地人に対する所得税の問題は生じません。
② 地代の支払い時
現行地代が相当の地代を超える場合には、その超える部分の金額は、借地人から地主に対する贈与であるものとして取り扱います。
したがって、個人側では、事業所得や雑所得、不動産所得の計算において計上すべき支払地代の額は相当の地代の額となります。また、法人側ではその個人との関係性に応じて、その超える部分の金額を寄付金又は賞与として取り扱います。
現金預金 | 150万円 | 受取地代(益金) | 100万円 |
受贈益(益金) | 50万円 |
③ 相続開始時
相当の地代により貸し付けられている場合の借地権価格は、相続税の財産評価上0円として評価をします。
ただし、地主が借地人の同族会社である場合には、上記借地権価格(0円)に自用地価格×20%を加算調整します。
4.無償返還に関する届出書の提出がある場合の借地権評価
土地の無償返還に関する届出書とは、法人税法基本通達13-1-7に基づく届出書を言います。
(1) 法人税法上の基本的な考え方
法人税法では、一般の法人は経済的利益を追求する主体であると考えられていますので、次の行為がある場合には、法人税法上、原則としてその受贈益相当額を益金算入します。
- 法人が無償により資産の譲受けをした場合
- 法人が時価よりも低い対価の額で資産の譲受けをした場合
(2) 借地権の認定課税
(1)の取り扱いは、借地権の設定時にも同様に取り扱われ、借地人と地主それぞれの課税処理は次の通り行います。
① 個人側(借地人)の処理
個人が法人から無償で借地権の設定を受けた場合は、借地権者は地主から借地権を贈与により取得したものとして取り扱います。この時、法人との関係性に応じて「一時所得」又は「給与所得」として処理をします。ただし、この場合の借地権の価格は相続税評価額ではなく「適正時価」となりますので注意します。
借地権 | 1,500万円 | 受贈益(一時所得・賞与) | 1,500万円 |
また、通常の権利金の額に満たない額の一時金を支払った場合には、通常の権利金の額と実際に支払った権利金との差額部分を「一時所得」又は「給与所得」として処理をします。
借地権 | 1,500万円 | 現金預金 | 500万円 |
受贈益(一時所得・賞与) | 1,000万円 |
なお、この場合の借地権価格は法人税法基本通達13-1-3にある次の算式により計算をします。また、土地の更地価格は適正時価であり、相続税評価額とは異なるため注意します。
② 法人側(地主)の処理
法人は個人から通常の権利金を収受したものとして益金処理するとともに、同額を寄付金又は役員賞与等として処理をします。
現金預金 | 100万円 | 権利金収入(益金) | 100万円 |
寄付金・役員賞与等 | 100万円 | 現金預金 | 100万円 |
なお、通常の権利金の額に満たない額の一時金を受け取った場合には、通常の権利金の額と実際に受け取った権利金との差額部分を「寄付金」又は「賞与」として処理をします。
(3) 借地権の認定課税がされない場合
土地の無償返還に関する届出書
権利金の取引慣行のある地域において、通常の権利金の支払いが無い場合であっても、次のいずれかに該当する場合には、借地権者に借地権が移転してはいるものの、その借地権には財産的価値が無いと考えられるため、この場合には借地権の認定課税は行われません。
- 土地の無償返還に関する届出書の提出がある場合
- 相当の地代による支払いがある場合
(4) 地代と借地権価格
土地の無償返還に関する届出書の提出がある場合、①地主が借地人の同族会社か否か、②地代の多寡に応じて、次の通り借地権価格が異なります。
① 地代が固定資産税相当額以下である場合
地代が固定資産税相当額以下である場合は、その借地関係は「使用貸借」と解されるため、相続税の財産評価上、その土地利用権は0円として評価をします。
② 地代が固定資産税相当額を超える場合
地代が固定資産税相当額を超える場合は、その借地関係は「賃貸借」と解されますが、無償返還に関する届出書を提出している場合には、財産的価値が無いとして相続税の財産評価上0円として評価をします。
ただし、地主が借地人の同族会社である場合には、土地の全体の評価額を個人と法人を通じて100%顕現させるために、上記の借地権価格(0円)に自用地価格×20%の金額を加算調整します。
5.相当の地代と無償返還に関する届出書
(1) 相当の地代と土地の無償返還に関する届出書
土地を相当の地代で貸した場合や、土地の無償返還に関する届出書を提出したうえ、有償で土地を貸した場合には、相続税の財産評価上、貸宅地を自用地価格の80%で評価し、借地権を0円で評価します。
したがって、上記の通り土地を貸し出すことで、合法的にその土地全体の評価額を20%評価減させることができます。
なぜこのようなことが起きるかというと、土地を相当の地代で貸し付けた場合や無償返還に関する届出書を提出して土地を有償で貸し付けた場合には、借地権に財産的な価値は無いとしても、土地所有者からすると、借地借家法による保護のある借地権が存在する以上、土地の自由な使用収益が制約されることから、20%程度の評価減を認めるのが相当だと考えられるためです。
(2) 同族会社の場合
しかしながら、これを地主が借地人の同族会社であるケースについてまで認めてしまうと、課税の公平性を害することにつながります。
例えば、下の左図は通常の権利金で借地権を設定し、通常の地代を支払って借地しているケースであり、右図は相当の地代を支払って借地しているケースです。
この場合、個人が法人所有の土地を借地している事実は同じですが、相続税の財産評価では、右側の借地権価格が相当の地代通達の適用により0円である分、左側の場合と比べて、土地全体の評価額が20%低くくなります。借地している実質は何も変わらないのに、同族会社に相当の地代により土地を借りているだけで相続税の財産総額が変わってしまいます。
そこで、借地人が同族会社より相当の地代又は無償返還に関する届出書を提出の上、土地を借りている場合には、土地の全体の評価額を個人と法人を通じて100%顕現させること、すなわち、借地権価格に「自用地価格-貸宅地価格」に相当する金額を加算調整することで課税の公平性を担保しています。
同族会社とは?
同族会社とは、会社の株主の3人以下及びこれらの同族関係者が次の場合のその会社をいいます。
- 発行済株式総数の50%超を有する場合
- 出資総額の50%超を有する場合
- 議決権付株式の50%超を有する場合
- 会社の社員又は業務執行社員の過半数を占める場合
※自己株式は除かれます。
相続タックス総合事務所の代表は、大手資産税税理士事務所と大手不動産鑑定会社の両方で、計15年の経験を積んだ、この業界でも珍しい税務と鑑定評価の両方の実務経験がある税理士・不動産鑑定士です。
売却不動産の取得費が不明な場合、不動産の収益力の向上・改善、節税対策、事業承継対策、遺留分対策など、不動産に関する様々なアドバイスをすることができます。