定期借地権等の評価

2021年9月4日
阿部 博行

阿部 博行

税理士・不動産鑑定士・行政書士・FP1級技能士・応用情報技術者

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1.定期借地権の価格

定期借地権の時の経過による価値の消滅
定期借地権の時の経過による価値の消滅

(1) 普通借地権との比較

借地権の価格は、借地人に帰属する経済的利益(主として物権的価値、利用権的価値、経済的価値)を貨幣額をもって表示したものですが、普通借地権の場合も定期借地権の場合もこの考え方を基礎として価格が形成されているという点は同じです。

普通借地権と定期借地権
普通借地権と定期借地権

しかしながら、両者は「借地期間」が無限又は有限であるかに大きな違いがあります。

基本的に上の図からも分かるように、定期借地権の価値は普通借地権の価値のうちの一部と考えられます。また、その定期借地権の価値は時の経過に従い、確定的に減価していくという点に特徴があります。

(2) 設定権利金と借地権の価値

一般に、利用権的価値(需要)が高いほど設定権利金の額は高くなる傾向にあり、逆に、利用権的価値が低いと設定権利金が全く支払われないこともあります。地方のロードサイドなどの土地余りの場所では、設定権利金の支払いが無いこともよくあります。

一方、既に存在している定期借地権が市場流通した場合の定期借地権の価値は、①利用権的価値(需要)と②差額地代(借り得)の大きさと③その存続期間によって決まります。

設定権利金が異なる2つの定期借地権
設定権利金が異なる2つの定期借地権

したがって、例えば次の①と②のような定期借地権が存在する場合、②の定期借地権の方が地代の借り得が大きいため、定期借地権としての価値が高くなります。

  1. 権利金「無」+地代「高」・・・図のオレンジ
  2. 権利金「大」+地代「低」・・・図の緑

2.定期借地権等の評価

定期借地権等の評価方法
定期借地権等の評価方法

相続税土地評価における定期借地権等の価額は、①課税時期において借地権者に帰属する経済的利益及びその存続期間を基として評定した価額によって評価をします。ただし、課税上弊害がない限り、②その定期借地権等の目的となっている宅地の課税時期における自用地としての価額に、一定の割合を乗じて計算した金額によって評価するとしています(評基通27-2)

一般に前者を「原則的評価」、後者を「簡便的評価」といいます。実務上は、簡便的評価によることの方が圧倒的に多いかと思います。

ただし、次のような場合には、簡便的評価によると課税上弊害がありますので、原則的評価により評価をする必要があります。

  1. 自然発生的な差額地代(借り得)が明らかに生じている場合
  2. 借地契約締結後に追加の権利金の支払いがあった場合 等

3.原則的評価

原則的評価とは、課税時期における借地権者に帰属する経済的利益及びその存続期間を基として評定した価額によって定期借地権等の価格を評価する方法です。

財産評価基本通達では「借地権者に帰属する経済的利益」を明確に定義していませんので、現実的には不動産鑑定評価書を利用するほかないと思いますが、例えば自然発生的な差額地代が生じている場合の定期借地権の価格を求める算式としては次のようなものが考えられます。

参考:自然発生的な差額地代(借り得)が明らかに生じている場合の定期借地権の価格

\[ \bf{ 定期借地権等の価額 = 簡便法による定期借地権等の価格 + \frac{1年後の差額地代}{(1+r)^1} + \frac{2年後の差額地代}{(1+r)^2}+・・・+ \frac{n年後の差額地代}{(1+r)^n}} \]

4.簡便的評価

簡便的評価とは、次の算式により定期借地権等の価格を評価する方法です。

定期借地権等の価額=課税時期の
自用地価額
×借地権設定時の
定期借地権割合
×課税時期の定期借地権の
残存割合

(1) 課税時期の自用地価額

自用地としての価額とは、路線価方式よる評価又は倍率方式による評価により求めた評価額に、次の評価補正を考慮した価額をいいます。

  1. 大規模工場用地の評価
  2. 余剰容積率の移転がある場合の宅地の評価
  3. 私道の用に供されている宅地の評価
  4. 土地区画整理事業施行中の宅地の評価
  5. セットバックを必要とする宅地の評価
  6. 都市計画道路予定地の区域内にある宅地の評価
  7. 文化財建造物である家屋の敷地の用に供されている宅地の評価

(2) 借地権設定時の定期借地権割合

借地権設定時の定期借地権割合とは、借地権設定時における更地価格に対する定期借地価格の割合であり、次の算式により計算します。

\[ \small{ \textbf{借地権設定時の定期借地権割合} \\ = \frac{定期借地権等の設定時における借地権者に帰属する経済的利益の総額}{定期借地権等の設定時におけるその宅地の通常の取引価額} } \]

なお、定期借地権等の設定時におけるその宅地の通常の取引価額は適正時価によりますが、課税上弊害が無い場合には、定期借地権等の設定時における自用地としての価額÷0.8で計算した金額をもって、通常の取引価額とすることができます。

(3) 課税時期の定期借地権の残存割合

課税時期の定期借地権の残存割合とは、借地権設定時における定期借地権価格((1)×(2))のうち、課税時期において残存する割合として示されるものであり、次の算式により計算します。

\[ \small{ \textbf{課税時期の定期借地権の残存割合} \\ = \frac{課税時期におけるその定期借地権等の残存期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率}{課税時期におけるその定期借地権等の設定期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率} } \]
  • 基準年利率及び複利年金現価率は財産評価個別通達において公表されている利率を用います。
  • 残存期間年数及び設定期間年数は、その年数に1年未満の端数があるときは6か月以上を切り上げ、6か月未満を切り捨てます。

複利年金現価率とは?

複利年金現価率
複利年金現価率

複利年金現価率とは、毎年一定額を積み立て、これを一定の利回りにより複利で運用し、その運用が終わった時の積立元本と利息の総額を現在価値に割り戻した場合にいくらになるかを計算するために使用する率をいいます。算式的には複利年金終価率に複利現価率を乗じたものになります。

\[ \textbf{複利年金現価率} = \frac{ ( 1+ r )^n – 1 }{ r ( 1+ r )^n } = 複利年金終価率 \times 複利現価率 \]

例えば、毎期の積立額を100万円とし、年利を0.01%とすると、期間を10年及び30年とする複利年金現価はそれぞれ次の通り計算されます。

  • 10年・・・100万円 × 9.973 = 997,300円
  • 30年・・・100万円 × 29.769 = 29,769,000円

5.定期借地権等の設定の時における借地権者に帰属する経済的利益の総額

定期借地権等の設定の時における借地権者に帰属する経済的利益の総額は、次に掲げる金額の合計額となります。

定期借地権等の設定の時における借地権者に帰属する経済的利益の総額=定期借地権等の設定に際し支払われた権利金等の額保証金等のうちに占める実質的な権利金・前払地代実質的な権利金・前払地代とみなされる差額地代

(1) 定期借地権等の設定に際し支払われた権利金等の額

定期借地権等の設定に際し支払われた権利金等の額

定期借地権等の設定に際し、借地権者から借地権設定者に対し、権利金、協力金、礼金などその名称のいかんを問わず借地契約の終了の時に返還を要しないものとされる金銭の支払い又は財産の供与があった場合には、次の①と②の金額を「定期借地権等の設定の時における借地権者に帰属する経済的利益の総額」に加算します。

  1. 定期借地権等の設定の際に支払われた権利金等の金額
  2. 定期借地権等の設定の際に供与した財産の金額

これは、当該①・②の金額が定期借地権等の設定に対する具体的な対価と考えられるためです。

なお、供与した財産には、借地人による造成費用の建て替え、借地人から地主への無利息の金銭の貸付け、他の財産の贈与、借地人による債務引き受けなどが想定されます。

留意事項

財産評価基本通達では「課税時期において支払われるべき金額又は供与すべき財産の価額に相当する金」と記載されていますが、これでは課税時期における借地権者に帰属する経済的利益を算出することになり、定期借地権等の設定時における借地権者に帰属する経済的利益の総額を算出することには繋がらないため、当該財産評価基本通達は論理破綻していると筆者は考えています。

従いまして、筆者は、定期借地権等の設定の際に支払われた金額又は供与した財産額の金額を計上すべきものと考えています。

(2) 保証金等のうちに占める実質的な権利金・前払地代

保証金等のうちに占める実質的な権利金・前払地代
保証金等のうちに占める実質的な権利金・前払地代

定期借地権等の設定に際し、借地権者から借地権設定者に対し、保証金、敷金などその名称のいかんを問わず借地契約の終了の時に返還を要するものとされる金銭等(保証金等)の預託があった場合において、その保証金等につき基準年利率未満の約定利率による利息の支払いがあるとき又は無利息の場合においては、次の算式により計算をした金額を「定期借地権等の設定の時における借地権者に帰属する経済的利益の総額」に加算します。

保証金等 – 保証金等 × 複利現価率 – 保証金等 × 受取利息 × 複利年金現価率

保証金等   :保証金等の額に相当する金額
複利現価率  :定期借地権等の設定期間年数に応じる基準年利率による複利現価率
受取利息   :基準年利率未満の約定利率(地主が借地人に支払う利息の利率)
複利年金現価率:定期借地権等の設定期間年数に応じる基準年利率による複利年金現価率

  • 設定期間年数は、その年数に1年未満の端数があるときは6か月以上を切り上げ6か月未満を切り捨てます。
  • 当該算式における基準年利率については、どの年の基準年利率を使用すべきかを財産評価基本通達では明示していませんが、当該計算式により算出される借地権者に帰属する経済的利益は「定期借地権等の設定時」のものであるため、当該算式における基準年利率については設定時の基準年利率を本来的には採用すべきものと筆者は考えています。

① 保証金等×複利現価率の額を控除する意味

設定時において用意しておくべき保証金等の額
設定時において用意しておくべき保証金等の額

借地期間中に預り保証金を基準年利率により複利で運用することを想定すれば、「保証金等-保証金等の額×複利現価率」の金額は、実質的に定期借地権等の設定時に、借地権者が地主に対して権利金又は前払地代として支払った金額といえ、定期借地権等の設定の時における借地権者に帰属する経済的利益を構成するものと考えられます。

② 保証金等×利率×複利年金現価率の額を控除する意味

借地人が地主より保証金等の利息を受け取る場合には、その毎期の運用益の複利年金現価分だけ、実質的に地主に支払う「権利金・前払地代」が少なくなりますので、その毎年の利息額の複利年金現価を上記①の金額から控除することで調整しています。

(3) 実質的な権利金・前払地代とみなされる差額地代

第三者間の借地契約では、互いに利益相反の関係にあるため、経済合理性に合致した借地契約となることが普通であり、通常あるべき地代(通常の地代)と実際に支払っている地代(実際支払地代)との間に大きな差額が生じることはほとんどありません。

しかしながら、親族間や不動産オーナーとその同族会社との間の借地契約では、経済合理性に反するような低廉な地代により土地の貸付けが行われている場合もあり、そのような場合には実際支払地代と通常の地代との間に合理的理由のない差額が生じていることとなります。

実質的に贈与を受けたとみなされる差額地代の複利年金現価
実質的に贈与を受けたとみなされる差額地代の複利年金現価

当該差額地代については、毎年の暦年贈与としてみるか、あるいは、毎年の差額地代の複利年金現価を設定時に贈与したとみるかに若干の議論の余地は残しつつも、定期借地権等の評価においては後者により考えることとしています。

権利金等(前払地代)○○円受贈益○○円

したがって、下記の算式により計算される実質的に贈与を受けたものとみなされる権利金等の額は、定期借地権等の設定の時における借地権者に帰属する経済的利益として考慮することとしています。

差額地代の額 × 定期借地権等の設定期間年数に応じる基準年利率による複利年金現価率

留意事項

  • 実質的に贈与を受けたと認められる差額地代の額がある場合に該当するかどうかは、個々の取引において取引の事情、取引当事者間の関係等を総合的に勘案して判定します。
  • 差額地代の額とは、同種同等の他の定期借地権等における地代の額とその定期借地権等の設定契約において定められた地代の額※3との差額をいいます。

    なお、財産評価基本通達には明示されていませんが、※3の事情を考えれば、その比較対象となる同種等々の他の定期借地権等における地代の額は、権利金等や保証金等の一時金その他の経済的利益の供与がないものとした場合の、同種同等の定期借地権等に係る支払地代の額をいうものと考えられます。
  • 上記の(1)の権利金等の額又は(2)保証金等の額がある場合には、その金額に定期借地権等の設定期間年数に応ずる基準年利率による年賦償還率を乗じて得た額を地代の前払いに相当する金額として毎年の地代の額に加算します。
  • 当該算式における基準年利率については、どの年の基準年利率を使用すべきかを財産評価基本通達では明示していませんが、当該計算式により算出される借地権者に帰属する経済的利益は「定期借地権等の設定時」のものであるため、当該算式における基準年利率については設定時の基準年利率を本来的には採用すべきものと筆者は考えています。

6.基本的な定期借地権等の計算例

基本的な定期借地権等の計算例
内容設定時課税時期
自用地価格(相続評価額)50,000,000円40,000,000円
定期借地権等の設定時における権利金等の額12,000,000円
預け入れた保証金等の額(但し、利息は付さない。)30,000,000円
差額地代なし
設定期間年数・残存期間年数50年40年
特殊な事情なし
複利現価率@基本利率0.05%0.980
複利年金現価率@基本利率0.05%49.36839.593
基本的な設例
\[ 定期借地権等の価格 = 40,000,000 \times \frac{12,600,000}{62,500,000} \times \frac{39.593}{49.368} = 6,467,305円 \]

(1) 借地権設定時の定期借地権割合

\[ \bf{借地権設定時の定期借地権割合 = \frac{②}{①} = \frac{12,600,000}{62,500,000} } \]

① 借地権設定時の自用地としての価額

50,000,000円÷0.8=62,500,000円

② 借地権設定時の借地人に帰属する経済的利益の総額

12,000,000円※1 + 600,000円※2 + 0円※3 = 12,600,000円

  • 定期借地権等の設定に際し支払われた権利金等の額
    12,000,000円
  • 保証金等の運用益相当額の現在価値
    30,000,000円 - 30,000,000円×0.980=600,000円
  • 実質的に贈与を受けたとみなされる差額地代の複利年金現価
    0円

(2) 課税時期の定期借地権の残存割合

\[ \bf{課税時期の定期借地権の残存割合 = \frac{①}{②} = \frac{39.593}{49.368} } \]

① 課税時期におけるその定期借地権等の残存期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率

基準利率0.05%の40年の複利年金現価率・・・39.593

② 課税時期におけるその定期借地権等の設定期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率

基準利率0.05%の50年の複利年金現価率・・・49.368

7.差額地代がある場合の定期借地権等の計算例

差額地代がある場合の定期借地権等の計算例
内容設定時課税時期
自用地価格(相続評価額)100,000,000円80,000,000円
定期借地権等の設定時における権利金等の額1,000,000円
預け入れた保証金等の額(但し、利息は付さない。)10,000,000円
同種同等の他の定期借地権等における地代の額(年間)4,000,000円
実際支払地代3,000,000円
設定期間年数・残存期間年数50年33年
特殊な事情なし
複利現価率@基本利率0.05%0.984
複利年金現価率@基本利率0.05%49.36832.721
年譜償還率@基本利率0.05%0.020
差額地代がある場合の定期借地権等の計算例
\[ 定期借地権等の価格 = 80,000,000 \times \frac{49,383,168}{125,000,000} \times \frac{32.721}{49.368} = 20,947,874円 \]

(1) 借地権設定時の定期借地権割合

\[ \bf{借地権設定時の定期借地権割合 = \frac{②}{①} = \frac{49,383,168}{125,000,000} } \]

① 借地権設定時の自用地としての価額

100,000,000円÷0.8=125,000,000円

② 借地権設定時の借地人に帰属する経済的利益の総額

1,000,000円※1 + 160,000円※2 + 48,183,168円※3 = 49,383,168円

  • 定期借地権等の設定に際し支払われた権利金等の額
    1,000,000円
  • 保証金等の運用益相当額の現在価値
    10,000,000円 - 10,000,000円×0.984=160,000円
  • 実質的に贈与を受けたとみなされる差額地代の複利年金現価
    イ)差額地代
      4,000,000円 - 3,000,000円 - (1,000,000円+160,000円)×0.020
      =976,800円
    ロ) イ(976,800円)×49.368 = 48,222,662円

(2) 課税時期の定期借地権の残存割合

\[ \bf{課税時期の定期借地権の残存割合 = \frac{①}{②} = \frac{32.721}{49.368} } \]

① 課税時期におけるその定期借地権等の残存期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率

基準利率0.05%の33年の複利年金現価率・・・32.721

② 課税時期におけるその定期借地権等の設定期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率

基準利率0.05%の50年の複利年金現価率・・・49.368

相続タックス総合事務所の代表は、大手資産税税理士事務所と大手不動産鑑定会社の両方で、計15年の経験を積んだ、この業界でも珍しい税務と鑑定評価の両方の実務経験がある税理士・不動産鑑定士です。

売却不動産の取得費が不明な場合、不動産の収益力の向上・改善、節税対策、事業承継対策、遺留分対策など、不動産に関する様々なアドバイスをすることができます。